弊社の取り組み

文化財を未来へ受け継いでいくためには、適切な時期に修理を行うことが不可欠です。
今日まで伝えられてきた多くの文化財も、長い歴史のなかで修理や手当てを繰り返しながら受け継がれてきました。
文化財の保存には、その状態を的確に把握し、適切な時期に適切な修理や処置を行うことが重要です。
一方で、過去に行われた不適切な修理が原因となり、文化財そのものに深刻な損傷を生じさせている例も少なくありません。
弊社では、「最小限の介入」という文化財修理の基本倫理に則り、一点一点の状態や特性を十分に見極めたうえで、
文化財を未来へ受け継ぐために必要と判断される処置をご提案するよう心掛けております。

本格解体修理と応急修理(維持管理修理)

文化財の修理には、大きく分けて「本格解体修理」と「応急修理(維持管理修理)」があります。
弊社では、各作品の損傷状態や活用の頻度などを踏まえ、適切な診断を行います。
損傷要因を取り除くために本格解体修理を推奨する場合がある一方、
現時点ではメンテナンス程度の処置で維持できると判断される作品については、必要最小限の応急修理をご提案することもあります。

本格解体修理とは

大規模な外科手術のイメージです。
物理的に劣化していく文化財を後世へ継承するためには、適切な時期に損傷要因を取り除くための抜本的な修理が必要となります。
多くの作品は、長い年月のなかで定期的に修理が施され、今日まで伝えられてきました。
特に軸装(掛幅や巻子)の修理は、およそ70~100年に一度の周期が目安とされており、損傷が深刻化する前の適切な時期に実施することが望まれます。
本格解体修理では、すべての裏打紙の取り替え、絵具等の剥落止め、酸化物の除去、欠損部の補填などが基本的な処置となります。
修理には、素性が明らかで、将来にわたって安定性が見込まれる材料を使用します。また、再使用が困難と判断される表装裂地や下地骨なども、この機会に取り替えます。
取り替えた裏打紙や表装材料などについても、本紙とともに時代を経てきた文化財の一部であり、その来歴を伝える貴重な資料です。
そのため、別置保存ができるように整え、すべてご返却いたします。

旧裏打紙の除去
旧裏打紙の除去
欠損部への補修紙の補填
欠損部への補修紙の補填
漉嵌による補修
漉嵌による補修

応急修理(維持管理修理)とは

本格的な解体修理を必要とする段階ではないと判断される作品については、保存性を高めることを目的とした保存処置や保護対策を検討します。
その結果、最小限の処置によって作品の延命を図る「応急修理(維持管理修理)」を選択する場合があります。
また、保存箱や保存に関わる補助用具(太巻添軸など)を作製するなど、文化財を適切に維持するために必要な対策をご提案します。
あわせて、処置時点の状態や取り扱い上の注意点などをご報告し、その後の管理・活用や、本格解体修理を行う時期を検討する際の目安としていただきます。

ミュージアムクリーナーを用いたカビの除去
ミュージアムクリーナを用いたカビの除去
剥離している絵具に対する応急剥落止
剥離している絵具に対する応急剥落止

近現代文化財への対応

近現代に制作された文化財には、従来の文化財にはみられない多種多様な素材や技法が用いられています。
そのため、保存修理に関する知見や事例の蓄積も十分とはいえず、現在も研究が進められている分野です。
弊社では、作品の構造や劣化状態を的確に把握したうえで、最新の研究成果を取り入れながら、適切な保存方法や修理方法を検討しています。
また、必要に応じて保存科学をはじめとする各分野の専門家とも連携し、
従来の文化財修理の枠組みだけでは対応が難しい文化遺産についても、その特性に応じた保存修理に取り組んでいます。

洋紙作品の洗浄「傾斜型流水式洗浄装置」(※公開特許公報(A)特開2020-81926)による洋紙の洗浄処置
「傾斜型流水式洗浄装置」を用いた洋紙作品の洗浄
(※特許第7220867号(P7220867))
ガラス乾板のクリーニング
ガラス乾板のクリーニング

特殊事例への対応

伝統的な技術や材料だけでは対応が難しい事例、複合素材によって構成された作品、自然災害による被災文化財など、特殊性や緊急性の高い案件についてもご相談に応じています。
こうした事例では、対象となる文化財の状態や置かれている状況を個別に検討し、必要に応じて調査や応急処置を行いながら、適切な保存修理の方法をご提案します。

文化財に含まれる有害物質の除去作業の様子
文化財に含まれる有害物質の除去作業の様子

高精細デジタル化

展示や教育普及等を目的とした、文化財の高精細デジタル化についてもご相談に応じています。
保存修理や応急修理を終えたタイミングで、あわせてデジタル記録を実施される事例も増えています。
文化財の形状や大きさ、活用方法によって、適切なデジタル化の手法は異なります。
弊社では、協力企業との綿密な連携により、高精細撮影から「翻刻」「インターネット公開用のプラットフォーム整備」まで、それぞれの目的やご要望に応じた方法をご提案します。
高精細なデジタル記録は、文化財そのものへの負担を抑えながら、その価値や情報を広く伝えることができる、文化財の安定的な活用方法のひとつになり得ると考えています。

複製(レプリカ)制作

展示や教育普及等を目的とした、文化財の複製(レプリカ)制作についてもご相談に応じています。
複製は、印刷方法や使用する素材によって、原本の色彩や質感などの再現性が大きく異なります。
弊社では、協力企業や研究機関との綿密な連携により、文化財の特性や複製の目的、ご要望に応じた適切な制作方法をご提案します。
国宝・重要文化財をはじめとする文化財の取り扱い実績を活かし、原本の調査から撮影、色調整、完成まで、文化財修理の専門家として監修します。

コンディションチェック業務

文化財は、時間の経過とともに少しずつ劣化していきます。
空気や光、温湿度の変化などによる影響は、文化財が存在する以上、完全に避けることはできません。
また、カビや虫害、取り扱いなどの人的な作用も、劣化や損傷を引き起こす要因となります。
これは安定した収蔵環境で保管されている文化財も同様です。
作品の状態を定期的に点検することで、変化や異常を早期に発見し、損傷が深刻化する前に適切な対応をとることが可能となります。
弊社では、これまで美術館や資料館などにおいて、大規模なコンディションチェック業務を実施し、個々の作品の状態を確認・記録・報告する活動にも積極的に取り組んできました。
保存方法に関する助言も含め、文化財の継続的な状態確認と適切な維持管理をお手伝いします。

保存用具の製作

保存箱(桐・中性紙)や保存に関わる補助用具(太巻添軸など)をはじめ、
展示容器を兼ねた特殊保存箱、保管用収納庫など、さまざまな保存用具の製作に対応しています。
文化財の形状や材質、保存環境、活用方法などを踏まえ、使用する素材や仕様、費用について多角的に検討し、それぞれの目的に適した方法をご提案します。
少量・小ロットでの製作についてもご相談に応じています。

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保存環境への提案

公益財団法人文化財虫菌害研究所認定のIPMコーディネータ資格を有する職員を中心に、文化財の保存環境に関するご相談に応じています。
温湿度や光、虫害・カビなど、文化財の劣化につながるさまざまな要因を確認し、収蔵・展示環境の改善や適切な維持管理についてご提案します。
文化財の種類や施設の状況、日常的な管理方法などを踏まえ、継続して実施可能な保存環境づくりをお手伝いします。

収納箪笥内の温湿度管理用に設置したデータロガ
収納箪笥内の温湿度管理用に設置したデータロガ

設計業務

文化財を適切に修理するためには、その状態を正確に把握し、適切な修理仕様を策定することが不可欠です。
手抜き工事を戒めることはもちろん、必要以上に手を加える過剰修理も避けなくてはなりません。
弊社では、目の前にある文化財にどのような損傷が生じ、どのような手当てが必要なのかを検討します。
そのうえで、修理後の保管環境や活用方法、ご事情などをお聞きし、最善と判断される技術と材料を用いた修理仕様をご提案します。
文化財の寿命は非常に長いものです。目先の費用や効果だけではなく、100年という時間軸で修理の内容を検討することが必要であると考えています。
設計業務としてご依頼いただく場合には、実際に修理を施工する立場とは切り離し、より中立的な視点から修理内容や仕様をご提示します。
また、ご提案する内容については、処置の必要性や採用する技術・材料の理由を明確にし、十分にご納得いただける説明を心掛けています。

啓蒙活動

文化財を未来へ受け継いでいくためには、修理を行うだけでなく、その価値や適切な保存方法について広く理解を深めていただくことも大切だと考えています。
弊社では、地域文化財の保存を目的としたワークショップの開催をはじめ、文化財修理に関する報告会や講演、大学などの教育現場での特別講義などにも応じています。
文化財修理の現場で培ってきた知識や経験をお伝えすることで、文化財を身近に感じ、その保存や継承について考えていただく機会づくりにも取り組んでいます。

被災文化財の保存のためのワークショップ
(宮城県石巻市釜谷地区)
被災文化財の保存のためのワークショップ
(宮城県石巻市釜谷地区)